Interview
新時代の黒液回収ボイラーを導入し
森林資源の循環を次の段階へ進める。
Profile
濱岡 佑紀
日本製紙株式会社
エネルギー技術本部
エネルギー技術部 主査
入社以来一貫してエネルギー供給部門で設備投資や操業管理に携わり、北海道、静岡、宮城、アメリカの工場での勤務を経た後、宮城県・石巻工場に異動。現在は、パルプ製造の副産物である黒液を活用する高効率回収ボイラー建設プロジェクトに参画。現場視点での建設計画に携わる他、プラントメーカーやゼネコンとの調整役も手がける。
Profile
濱岡 佑紀
日本製紙株式会社
エネルギー技術本部
エネルギー技術部 主査
入社以来一貫してエネルギー供給部門で設備投資や操業管理に携わり、北海道、静岡、宮城、アメリカの工場での勤務を経た後、宮城県・石巻工場に異動。現在は、パルプ製造の副産物である黒液を活用する高効率回収ボイラー建設プロジェクトに参画。現場視点での建設計画に携わる他、プラントメーカーやゼネコンとの調整役も手がける。
木材を余すことなく活用し、紙や板紙にとどまらず、エネルギーやケミカルなど幅広い領域へ事業を展開してきた日本製紙。現在、同社の石巻工場では、パルプ製造の副産物である「黒液」を高効率に活用する新たな回収ボイラーの建設が進められている。石炭から黒液への燃料転換を進めることで、製造プロセスそのものの脱炭素化を図る重要なプロジェクトだ。この取り組みに初期フェーズから携わる濱岡佑紀さんに、プロジェクトにかける想いと、その先に見据える未来について聞いた。
パルプ製造の副産物である黒液を、より有効活用するために
現在当社では、パルプを製造する過程で副産物として生じる「黒液」を、より高効率にエネルギーへ転換するためのボイラー建設プロジェクトに取り組んでいます。この黒液とは木材由来のカーボンニュートラルな燃料であり、当社では以前から工場の操業における重要なエネルギー源として活用してきました。ただ、黒液から得られるエネルギーだけでは必要なエネルギーをすべて賄うことが出来ず、不足分を石炭などの化石燃料で補っているのが実情です。そこで今回、宮城県の石巻工場に高効率な最新鋭の黒液専用ボイラーを導入することで、石炭から黒液への燃料転換を進めていくことになりました。
私は本事業の初期段階から携わっており、既存設備との接続や運転面での課題の洗い出しといった現場目線での検討に加え、関係省庁への届出対応、プラントメーカーやゼネコンの調整役としての設備仕様や工程の調整といった役割も担っています。建設完了後には試運転にも携わる予定で、計画から立ち上げまで一貫して関わる立場に当たります。もともと、バイオマスエネルギーを活用した発電設備に携わりたいという思いから入社したこともあり、この事業への参加が決まったときは率直に嬉しかったです。プロジェクトの規模やこれまで経験してきた業務とは異なる領域に踏み込むことへの不安もありましたが、それ以上に自分が関わりたいと考えてきたテーマに本格的に携われることへの期待のほうが大きかったと記憶しています。
ただ設備を導入するのではなく、設備の性能を最大化する
このプロジェクトの難しさは、当社として約30年ぶりとなる回収ボイラーの新設であることに加え、日本では導入事例の少ない設備や技術を数多く扱う点にあります。海外では技術革新が進んでいる分野ではあるものの、国内では十分な知見が蓄積されているとはいえず、実際の操業方法やメンテナンスのあり方まで具体的な想定をしながら進めることが難しい状況です。そのため、限られた情報の中で、使いやすく安全な性能を発揮できる設備仕様を見極めていく必要があります。
その難しさを乗り越えるために大切にしているのが、プラントメーカーとの綿密なコミュニケーションです。図面や仕様を受け取るだけでなく、「なぜこの設計なのか」「どのような考え方でこの仕様になっているのか」といった設計思想を一つひとつ確認し、背景から理解するようにしています。また、これまでの操業経験や現場目線を踏まえ、「この方が管理しやすい」「こうした方が効率的に運用できる」といった提案も積極的に行っています。時には見解の違いから調整に時間がかかることもありますが、双方の視点を掛け合わせることが最終的な設備の完成度を高めていくと考えています。
学生時代からの想いが、視野を広げていく
もともと自然に囲まれて育ったことや、学生時代に木材から可燃性ガスを取り出す研究に取り組んでいたことから、将来はバイオマスエネルギーに関わる仕事に携わりたいと考えていました。そうした背景もあり、黒液という木材由来の燃料を活用し、CO₂排出削減に直接繋がるこのプロジェクトに関われていること自体が、大きなやりがいになっています。
また、前例の少ない設備の導入に関わっているからこそ、日々新たな知見に触れられる点にも手応えを感じています。設備仕様の検討や打ち合わせでは、設計だけでなく、操業やメンテナンスまで見据えて判断する必要があります。そうした検討を重ねる中で、自分の視野が少しずつ広がっている実感があります。また、実際にバイオマスエネルギーを扱う立場になったことで、学生時代は漠然とした興味でしかなかったのですが、より具体的にバイオマスエネルギーの価値に気づくことができました。どの程度の量の燃料からどれだけのエネルギーが得られるのか、そしてそれがどの規模で社会に影響を与えるのかを自分の仕事として捉えられるようになったことは、大きな財産だと感じています。
大きな変化が待っている以上、確実に成功させる
本事業によって、石巻工場では石炭使用量を24万トン削減し、年間50万トンのCO₂排出削減が見込まれています。これは工場全体の排出量の約60%に相当し、宮城県全体の排出量の約3%に当たる規模です。これほど大きな効果がある以上、計画している性能を確実に実現したいと考えています。また、この燃料転換を通じて、製造時のCO₂排出量が少ないバイオマス素材を社会に提供することで、環境価値の高い素材や製品を生活の中に浸透させていくことも私の目標です。
製造業において脱炭素化を進めることは容易ではありません。しかし化石燃料はいずれ限界を迎えます。日本の強みである森林資源を活かすためにも、これまで以上に積極的に設備投資や新技術の導入などを進めていくことが重要だと思います。本プロジェクトのように大きな設備投資が必要であり、また時間のかかる取り組みだとしても、長期的な視点で見れば大きな価値につながるはずです。こうした一つひとつの取り組みの先に、家族や友人など大切な人たちが安心して暮らせる未来が待っていると思うので、今後も努力し続けていきます。


