Message
政府はグリーントランスフォーメーション(GX)の推進に向け、
GX経済移行債も活用して複数年度にわたる投資支援を始めています。
政府によるGX投資支援にはどのような狙いがあるのか、その中でこのプロジェクトはどんな役割を果たすのか。
GXSC事業・HtA事業を活用しGXを担う企業の皆様と、経済産業省でGX投資支援政策のとりまとめ責任者を務める
伊藤禎則GXグループ長に、それぞれの取り組みの背景や内容を聞きました。
※所属・役職は日本経済新聞掲載時(2026年3月31日)のものです。
JFEスチール株式会社
代表取締役社長 広瀬 政之
ねがう未来に
鉄(GXスチール)で応える
気候変動への対応は当社にとって持続可能な社会への貢献であり、事業機会です。GXスチール(※)については、2030年度までに供給能力を300万トンへ拡大することをめざします。さらにGHG排出ゼロの製鉄プロセスを実現すべく、水素還元をはじめとする革新的な製鉄技術の開発を進めており、早期に実用化が見込める「革新電気炉」を西日本製鉄所(岡山県倉敷地区)において既存の高炉に代わる新プロセスとして導入します。培った技術力により、低炭素でありながら高品質・高機能な鋼材を大量に供給できる体制を築いていきます。当社はカーボンニュートラルに向けたトップランナーとなり、経済社会全体の
グリーン化が加速するなかで、サプライチェーン全体の競争力向上に貢献していきます。
※企業単位での追加的な(スコープ1の)直接的排出削減行動による大きな環境負荷の低減があり、排出削減行動に伴うコストを上乗せした場合に、一般的製品よりも価格が大きく上昇する鋼材
日本製紙株式会社
代表取締役副社長 杉野 光広
「木」からつくる
未来を支える素材
当社は紙製造で培った技術を応用し、森林資源からセルロースナノファイバー、養牛用飼料、バイオエタノールなどの新しいバイオマス素材を生み出しています。幅広い事業領域へ展開することで、持続可能な社会の構築に貢献しています。持続可能な社会の実現には、素材をつくる過程でのCO₂削減に加え、グリーン製品の市場を確立し、拡大していくことが欠かせません。バイオマスなど非化石燃料への転換により脱炭素化を進め、環境負荷のより少ない素材を開発していきます。環境価値をお客様にご理解いただき、グリーン製品市場の早期確立を目指します。また、国内の森林資源を積極的に活用することで、サプライチェーンの強靭化も推進しています。
積水ソーラーフィルム株式会社
代表取締役社長 上脇 太
設置場所革命で
サステナブルな社会を実現
いまある社会課題を、未来に残さないために。積水ソーラーフィルムは、薄くて軽量、曲げられる次世代の太陽電池「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」の安定供給を目指します。政府のエネルギー基本計画でも、太陽光発電のさらなる社会実装の加速がうたわれているなか、従来型の太陽光発電は設置場所の拡大が困難になっています。フィルム型ペロブスカイト太陽電池の厚さは約1mm。軽量・柔軟という特性を生かし、従来は設置が難しかった、耐荷重性の低い建物の屋根や建物の壁面、円柱などの曲面での太陽光発電が可能となり、日本と世界の再生可能エネルギーの普及に大きく貢献します。その大規模な生産工場が2027年、大阪府堺市で稼働を始める予定で、最終的には年間1GW分の生産をめざしています。
株式会社大島造船所
代表取締役社長 山口 眞
浮体基礎製造で貢献
当社は「地球の自然環境との調和」を経営理念に掲げ、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを推進しています。その一環として、国内外で需要拡大が見込まれる洋上風力発電向け浮体基礎の安定供給体制の確立を目指します。浮体式洋上風力発電の普及にあたっては、資機材の供給能力不足や、建設コストの高さが課題となっています。これらの課題を解決するため、当社は造船事業で培った大型構造物の製造技術と国内最大級のドライドックを活用し、ブロックの生産から最終組立までを一貫しておこなう高速量産体制を確立します。本取り組みにより、脱炭素社会の実現へ貢献するとともに、地元・長崎での雇用創出を通じて、地域経済の活性化にも取り組んでまいります。
ナロック株式会社
代表取締役社長 寺本 隆一
次へ繋げる進化への挑戦
船舶用係留ロープで国内約40%のシェアを持つナロックは、培ってきたロープの技術で新しい挑戦を始めました。浮体式洋上風力発電設備を海上に固定するための「係留索」の製造を通して、将来のカーボンニュートラル市場の拡大を支えていく取り組みです。係留索として用いられる超大径の繊維ロープは、2030年までに洋上風力発電30基分以上を供給できる製造能力を実
現します。大径・長大な繊維ロープの製造を可能にするため、和歌山市の湾岸エリアに新工場を建設し、陸送が難しい大容量製品は海上輸送でお届けしていきます。この分野へは、商用としては日本企業の中でもいちはやくの参画となります。日本のトップランナーを目標に、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。
株式会社駒井ハルテック
専務取締役 駒井 えみ
風力発電で持続可能な
地域づくりに貢献
駒井ハルテックは「高い技術力で夢のある社会づくりに貢献する」という理念のもと、洋上風力発電設備の国内供給体制の強化を推進しています。千葉県富津市の工場には洋上風車用タワーの生産ラインを構築し、脱炭素化とともに、地域への雇用創出にも貢献しています。現在、洋上風力発電機の供給は海外製が主体となっており、導入の際、海外の要求事項に加えて日本特有の気象・海象条件を踏まえた仕様や各種基準との整合を取るといった細かな対応が必要になっています。当社は鋼製橋梁や超高層ビルの鉄骨など、鋼構造物の製造で培った技術と品質管理、ならびに日本型中型風力発電機の開発で得た知見を活用し、日本の海に適した日本製の風車タワーの供給を通してGXに貢献していきます。
日鉄エンジニアリング株式会社
代表取締役社長 石倭 行人
洋上風力で
カーボンニュートラル社会を
当社は、中期経営計画に掲げる「カーボンニュートラル社会の実現」と「レジリエントな街づくり」に重点方針として取り組んでいます。日本の洋上風力発電は、複雑な地盤や深い水深など厳しい自然条件下での大規模な洋上風力発電所の建設が課題です。当社は、大型海洋鋼構造物の設計・製作・洋上施工を自社で一貫対応できる国内唯一のオフショアコントラクターとして、石狩湾新港および北九州響灘で風車基礎の建設を実現してきました。今後は、若松工場(北九州市)への設備投資を中心に生産能力を大幅に増強し、商業規模の浮体式洋上風力発電所の建設を通じてカーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。
カナデビア株式会社
代表取締役 取締役社長 兼 CEO 桑原 道
水素社会実現に向けた挑戦
環境負荷ゼロと人々の幸福最大化を実現するために、当社は段階的なGHG排出量削減目標を定め、水素発生装置などの製品・サービスを通じて、社会の脱炭素化に挑戦しています。現在、日本をはじめとする水素先進国では、水素エネルギーの本格的な社会実装を前に、それを支える大規模な供給基盤の確立という壁に直面しています。この課題に対し、当社は水素製造のキーデバイスである水電解スタックの量産化によって応えます。水素サプライチェーンの要を担うべく、山梨県都留市に年産1GW規模の量産工場を建設します。この事業を通じて水素社会が実現可能であることを証明できると確信しています。私達は、技術と誠意で社会に役立つ価値を創造し、豊かな未来に貢献します。
株式会社SCREENホールディングス
代表取締役 取締役社長 後藤 正人
水電解装置部品で
社会を変える
ディスプレー塗布乾燥装置のトップメーカーとして培った技術と開発力を活用して、触媒層付き電解質膜(CCM)/膜電極接合体(MEA)を製造しています。これらは水電解装置や燃料電池の心臓部として、水素社会を実現させるためには欠かせない電極部材です。水素はコストの高さが導入の壁となり、普及が思うように進みにくいという課題を乗り越えるためにも、当社は滋賀県彦根市に新工場を建設し、製造ラインを整備しました。量産効果に加え、貴金属の使用量低減にも取り組むことでCCM/MEAのコストダウンを進め、水素エネルギー社会の実現に寄与することをめざします。「人と技術をつなぎ、未来をひらく」というモットーで、課題解決につながるソリューションを提供していきます。
デノラ・ペルメレック株式会社
代表取締役社長 大倉 誠
水電解用電極の供給体制確立
当社は「持続可能な技術開発を通じてカーボンニュートラル社会の実現に貢献する」ことを経営理念としています。脱炭素に向けたエネルギー転換の中で、電力を用いて水素を生産するための最も確立された技術的選択肢が「水電解」です。その普及を支える水電解用電極について、2030年までに年間2GW分の増産対応を行い、CO₂排出削減の加速につなげていきます。グリーン水素のコストや需給の不透明さが課題となる中でも、世界トップの技術力と特許、そして大規模生産体制とリサイクル技術を強みに、安定供給と環境配慮型製品の提供を通じて市場を牽引していきます。デノラ・ペルメレックは本事業を通じて、脱炭素社会の中核企業となることを目指します。
Profile
伊藤 禎則
経済産業省
GXグループ長
1994年東京大学法学部卒業、入省。米国コロンビア・ロースクール修士号、NY州弁護士資格取得。通商交渉、人材政策、AI半導体政策等を歴任。2019年-22年NYジェトロ産業調査員、大臣官房秘書課長、内閣総理大臣秘書官を経て、24年11月より資源エネルギー庁省エネ新エネ部長、25年7月より現職。地政学的な変動の下で新たなGX政策の設計を担う。
成長戦略に位置づけ
GXを巡る足元の状況をどう捉えていますか。
米国では温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」からの離脱、温室効果ガスが公衆の健康・福祉を危険にさらしているという科学的認定の撤回などが相次ぎ、電気自動車や再エネから製造する「グリーン水素」への補助も大幅に減らされました。一方で化石燃料との親和性が高い「ブルー水素」や二酸化炭素(CO₂)回収・貯留
「CCS」へは引き続き支援が行われ、原子力発電所も拡大に踏み切るなど、米国内のアセットは徹底的に活用する方針です。
カーボンニュートラルの旗手である欧州も、最近は「域内産業競争力との両立」を強調しています。中国は大規模な政府の補助策を背景に増やした生産能力を生かして再生可能エネルギーや電池のコストを下げ、海外に安価で輸出して市場を席巻しています。
AI(人工知能)の発展にともなって電力需要
が増大する点も見逃せません。これまでエネルギーのトランジション(移行)が課題と
されてきましたが、今後はむしろエネル
ギー・アディション(追加)が必要です。
日本のGX政策は、「エネルギー安全保
障、経済成長、脱炭素」を同時に追求するところから始まりました。日本は毎年、20兆円以上の化石燃料を輸入しており、それが交易条件の悪化を通じて円安や物価高の主要な要因になっているとの分析もあります。CO₂削減だけでなく経済政策の観点からも化石燃料の削減が急務です。クリーンエネルギーの分野では中国が「電気スタック」、つまりモーターや電池から電気自動車やドローンに至る中核市場を席巻しこれを支配しようとしているとの指摘もあります。レアアース(希土類)も含め、こうした要素についても特定国への依存を下げる必要があり、国産エネルギー強化につながる
GX推進がエネルギー安全保障の切り札と
なります。
そうした中で日本のGXにおいてはどの分野が重要になるのでしょうか。
高市政権が日本成長戦略で掲げる17の戦略
分野の1つが、「資源・エネルギー安全保障・GX」です。経産省ではこの分野につ
いて議論するワーキンググループを開催し、次世代ペロブスカイト太陽電池、地熱発電、洋上風力発電、水素等、そして鉄鋼分野におけるGXにより生産されるグリー
ン鉄などに関して議論を進めています。今後、これらの分野についてロードマップを策定して必要な支援策を検討し、企業の投資促進を通じて日本国内で勝ち筋を見つけ、海外の市場も取りに行きます。
GX投資の評価高める
「GX国内支援策」の中身について教えてください。
日本の成長に最も必要なのは「国内投資」です。日本には技術力も人材もありますが、この30年はとにかく国内投資が不足していました。その後押しに重要な分野の一つがGXで、GX実現に不可欠な技術の設備
投資と製造業のエネルギー製造プロセス転換を後押しするため、ふたつの支援の枠組みを用意しました。ひとつはGXサプライ
チェーン(供給網)構築支援で、水素を作る
水電解装置や、ペロブスカイト太陽電池、浮体式等洋上風力発電設備など、GXに不
可欠なクリーンエネルギーの製品を製造するための国内サプライチェーンの構築・強化に向けた設備投資を後押しする補助金の枠組みを用意しました。
もう1つが日本の高度成長を支えてきた鉄鋼、化学、紙パルプ、セメントなど製造プロセスでCO₂を多く排出する産業におい
て、エネルギーや製造プロセスの転換をはかり、競争力強化につながる設備投資を支援します。例えば鉄鋼ではコークスを使った高炉から高品質の大型電炉への転換に向けた投資を、設備投資補助金を通じて後押ししています。国内投資を増やし、サプライチェーンを守る観点から、これらの分野がカギになります。
GXについてはコスト高や事業の不透明さなど企業側にもハードルがあります。
上に紹介した2つの枠組みも活用いただいて国内投資を実行する企業は、成長戦略の主要なプレーヤーであり、GXへの投資を評価される必要があります。資本市場に対するIRや、高い技術力を持つ優秀な人材確保への訴求のため、経産省としてもPRを一緒に行いたいと考えています。またGX全般については供給サイドへの支援だけでなく需要の創出、市場の開拓も重要です。原材料から製造、輸送、廃棄まで全体の環境負荷を検証するライフサイクルアセスメント(LCA)や、個別製品のCO₂総排出量を示すカーボンフットプリント(CFP)、炭素に適正な価値を付ける排出量取引制度(GX-ETS)といった制度に取り組み、政府によるGX製品の率先的な調達も進めて需要創出を後押しし、企業と伴走していきます。
今後のGXへの取り組みの方向性も教えてください。
これからは複数年度にまたがる官民連携での投資支援が重要になります。国内外で大きな地政学的変化が起きている中、国産エネルギー強化とサプライチェーン強靱化を中心に国内投資を後押ししていきます。
GXは脱炭素を切り口とした経済政策、産業政策、エネルギー政策であり、それをいかに実現するかが問われるでしょう。