Interview
電解技術50年の到達点、
電極量産で日本の水素社会を切り拓く
Profile
大倉 誠
(おおくら まこと)
デノラ・ペルメレック株式会社
代表取締役社長
1985年岡山大学工学部卒業後、同年クロリンエンジニアズ株式会社(現ティッセンクルップ・ニューセラ株式会社)入社
2002年エンジニアリング課長、2006年製造部長、2009年環境水処理部長、2010年環境水処理本部事業本部長、2011年経営企画本部長、2012年取締役、2013年De Nora Asia Regional Operating Officer、2014年調達・生産計画部門担当執行役員を歴任
2015年デノラ・ペルメレック株式会社の取締役、2016年代表取締役およびDe Nora Elettrodi (Suzhou) Co., Ltd.のDirectorを経て、2023年4月より現職
Profile
大倉 誠
(おおくら まこと)
デノラ・ペルメレック株式会社
代表取締役社長
1985年岡山大学工学部卒業後、同年クロリンエンジニアズ株式会社(現ティッセンクルップ・ニューセラ株式会社)入社
2002年エンジニアリング課長、2006年製造部長、2009年環境水処理部長、2010年環境水処理本部事業本部長、2011年経営企画本部長、2012年取締役、2013年De Nora Asia Regional Operating Officer、2014年調達・生産計画部門担当執行役員を歴任
2015年デノラ・ペルメレック株式会社の取締役、2016年代表取締役およびDe Nora Elettrodi (Suzhou) Co., Ltd.のDirectorを経て、2023年4月より現職
半世紀を超えて電解*1技術の真髄を追求してきたデノラ・ペルメレック。食塩電解で確固たる地位を築く同社は今、水素社会の実現を自らの「宿命」と定め、アルカリ水電解用電極の量産能力を抜本的に強化するGXプロジェクトを始動させた。藤沢事業所に新設するラインは合計4GW相当という圧倒的な供給力を目指す。その核心は、地政学的リスクを回避する「国内一貫体制」を構築し、日本のエネルギー安全保障の土台を固めることにある。独自の触媒技術を武器に、低コスト・長寿命という難題を突破。資源循環まで網羅する自律的な仕組みで脱炭素を支えるという使命感を胸に、本事業を推進している。未踏の市場へ挑む代表取締役社長の大倉 誠氏に、その戦略と覚悟を伺った。
*1 電気を通し物質を分解すること。食塩電解は塩水に電気を流して塩素や苛性ソーダ(洗浄剤や化学品の原料)をつくる技術。アルカリ水電解は水に電気を流して水素を取り出す技術。
国内一貫体制で水素製造コスト低減へ
今回、GXプロジェクトとして、アルカリ水電解向け電極の量産能力強化に向け、経営資源を投入する決断をされました。本事業における背景とねらいを、量産化の現状も交えて伺えますか。
デノラ・ペルメレックは、食塩電解や水処理プラントなど、長年にわたり「電解技術」を主軸とした事業を展開してきました。その技術的支柱となっているのが、50年以上にわたりアルカリ水電解の技術を磨き続けてきたイタリアのグループ本社、De Noraの知見です。 一方、日本のR&D拠点においても、燃料電池用電極を通じて「水素」というテーマと深く向き合ってきた歴史があります。このような技術的背景を礎として、今回の事業に踏み切りました。
本事業は、アルカリ水電解(AWE)向け電極の量産能力を抜本的に強化し、水素製造コストの低減と安定供給を実現する取り組みです。藤沢事業所に新たな生産ラインを増設し、フェーズ1として年間20万平米・約2GW(ギガワット)相当、フェーズ2としてさらに20万平米を加えて40万平米、合計4GW相当の供給体制を整えます。現時点ではフェーズ1、2GWの設計に着手しています。
投資判断の決め手となったのは、GWクラスの水電解への社会実装が現実味を帯び始めたことです。2050年の水素社会実現に向かって設備投資することは、デノラ・ペルメレックが背負うべき宿命だと思っています。我々のステークホルダー、特に直接のお客様であるアルカリ水電解槽のライセンサー*2が、水素社会の実現に向けたビジョンを描いており、そこが一番大きなポイントになります。
本事業の一番のねらいは、日本のお客様に対し、責任を持って日本製のプロダクトを届けることです。昨今の地政学的リスクを回避すべく、国内製造・国内供給の完結したサイクルの構築を戦略の要に据えています。
この戦略を実現するために、貴金属の調達からリサイクルに至るまでのサプライチェーンを抜本的に見直し、国内のステークホルダーとの強固な協力体制を構築しています。現状の不安定な情勢下で、信頼の置ける日本メーカーの方々とともに歩むことが、安定供給という社会的責任を果たすための大きな原動力となっています。
*2 水電解装置の設計・開発元。
50年の技術が生む「三位一体」の優位性
世界トップクラスの水電解用電極の製造能力をお持ちですが、その技術的特徴、他社に対する優位性はどこにありますか。また、水電解特有の技術的難易度についても教えてください。
電極とは、金属のベースメタルの上に酸化物の触媒がコーティングされているもので、この表面から電気を流すことで水素が発生します。このシンプルな反応を、いかに大規模かつ高品質に実現するかがカギとなります。
我々の強みは、サプライチェーンと協力し、安定した品質の電極を大量生産できることです。現状の電極の製造能力・生産量において、常圧型アルカリ水電解槽で世界シェアの3分の2を占め、トップ3の一角に名を連ねています。もちろん、国内では圧倒的なシェアを誇ります。
製造技術としては、電極表面へのコーティングが極めて重要です。単に触媒を塗布するだけでなく、その微細構造をいかに制御し、水素発生に対する反応活性を最大化できるかが勝負の分かれ目です。
我々はこの分野で数多くの特許を取得・出願しており、業界の最前線を走っています。数十年にわたり食塩電解で培ってきた高度なコーティング技術をベースに、高活性かつ高品質な電極を安定して大量生産できる点に、他社の追随を許さない抜群の優位性があります。
こうした技術的基盤がある一方で、アルカリ水電解用電極は通常の電極と違い、負荷変動に対応する必要があります。その負荷変動によって、厳しい条件下でコストダウンを図り、高性能かつ長寿命にしなければなりません。いかに低エネルギー、低電力で水素を発生させるかが最も難しいチャレンジです。
低電圧による省エネ性能と、長寿命化の両立――。これらは通常、トレードオフの関係にあります。コストを抑えるために触媒の量を減らせば寿命が犠牲になり、寿命を優先すればコストが跳ね上がります。
我々はこの難題に対し、独自のコーティング技術と特殊な触媒構造によって、最小限の材料で最大限の活性を引き出すことに成功しました。この「低コスト・低電圧・長寿命」の三位一体を実現している点こそ、我々の技術が世界トップレベルにある証だと自負しています。
市場の手応えと、サプライチェーンの要
水素社会の実現にはまだ課題も多いとされています。現在の市場環境をどう分析し、その中でステークホルダーやサプライチェーンとどのような協力体制を築いていこうとお考えですか。
GX化の文脈において、水素および水電解の需要が今後伸びてくるのは間違いありません。キーポイントは、水素が重要な「エネルギーキャリア*3」として位置づけられることです。それによって需要が高まり、日本の脱炭素が推進していくと考えています。
我々は部品メーカーです。まずはライセンサーと対話を重ね、高品質な製品の安定供給を通じ、揺るぎない信頼関係を築くことが責務となります。
企業としては、投資を利益につなげることが不可欠ですが、水素市場においては確実に利益が出る時期を予測することが難しく、そこが大きなチャレンジとなります。
今回の増設ラインの稼働は2028年を予定していますが、実際その頃にアルカリ水電解用電極の需要が顕在化しているのか、現状では見通しが立っていません。ここは、経営判断として一番のボトルネックです。しかし、マーケットの熱量は確実に高まっています。現にここ2、3年は、多岐にわたる分野・用途のお客様から、電極、小型水電解槽、水素発生装置についての問い合わせが急増しており、たしかな手応えを感じています。
我々は、材料調達から量産、納入、さらには使用後の貴金属回収・リサイクルまで、水素電極の全工程をカバーする強固なサプライチェーンを構築しています。多くのパートナー企業と連携し、資源を循環させながら安定供給を維持するこの仕組みこそが、水素社会における我々の最大の強みです。
デノラ・ペルメレックの電極は、大きなサプライチェーンにおいてなくてはならない土台です。そういった意味で、プラットフォームとして安定して電極を供給することがタスクになります。さらに、水素の製造コスト低減に貢献し、実装を加速させたい。今回増設する2GW相当の供給体制がフル稼働すれば、その先には約250万トンものCO₂削減という巨大な環境効果が待っています。
*3 エネルギーを輸送・貯蔵しやすい形態に変えたもの。水素は電気をそのまま運ぶのが難しい長距離輸送や、長期間の保存に適した「運び手(キャリア)」として期待されている。
水素社会に向かう「波」をつかまえる
この挑戦の先に、どのような未来を見据えていますか。また、今回のプロジェクト全体を通じた決意を聞かせてください。
脱炭素を目的として水素をつくるとコストがかかります。つくる側も使う側も高いコストを我慢しなければいけない状況では、サステナブルな社会は達成できません。官民一体となり、つくる側も使う側も成長できる社会を目指すべきです。
年間2GW、10年で20GWという供給能力は、現在の国内需要から見れば桁違いの規模であり、製鉄や混焼といった現状のインフラや補助金制度だけでは到底使い切れないほどのインパクトがあります。
しかし、この供給能力は日本市場のみを想定したものではありません。水素の本質はエネルギーキャリアです。我々の電極を載せた日本製の装置が世界中で稼働し、そこでつくられたクリーンなエネルギーが再び日本へ還ってくる循環が生まれれば、この供給量は決して過剰ではありません。まずは国内のお客様を支え、日本の技術基盤を固めることで、世界規模のエネルギー循環を支える起点になりたいと切に願っています。
水素社会の実現には、経済的なハードルがあるのが実情です。本事業で生産する水素は、従来の水素と価格差が出るため、制度として値差を埋めなければなりません。だからこそ、自治体と連携し、補助金制度なども有効に活用しながら、まずは「水素を使い、脱炭素に貢献する」という成功事例を積み上げていく必要があります。地域社会に水素を少しずつ浸透させ、その存在を当たり前にしていく。こうした地道な社会実装の積み重ねこそが、我々の役割なのです。
他方、供給側の努力や自治体との連携だけでは、解決できない壁があるのも事実です。現在の水素社会は、先駆的な企業様や自治体が実証および限定用途で挑戦している段階です。私が懸念しているのは、供給側のみが投資を継続して疲弊してしまい、結果として2050年になっても実証段階にとどまっていることです。
今後の最大のボトルネックは、水素のコンシューマー側にあります。投資判断の先送りが連鎖すれば、いずれ訪れる水素社会のウェーブを逃しかねません。それを避けるためにも、石化燃料との値差を埋める支援を前倒しで行い、官民一体でゲームチェンジを起こす必要があると痛感しています。
100%の水素社会を構築することは、当分の間は難しいでしょう。企業努力によって水素の需要が高まり、石油化学・石化エネルギーに対しての競争力がつくことで、エネルギーの選択肢が増えることが我々の描く未来です。
私は技術畑出身です。新しい製品を考え、つくり、世に出していく――。ものづくりへの情熱こそが何よりのモチベーションです。ストラテジックイニシアチブとして日本拠点の責任を担い、革新的なプロダクトをいかなる形で社会に送り出すかを重視しています。水素社会における技術的基盤になれるのは、国内では当社しかいないと確信しています。
今後は、水素社会の大きなウェーブが訪れた際に出遅れないことが重要です。準備ができていなければ、最初の波に乗り切れない可能性もあります。デノラ・ペルメレックの宿命ともいえる本事業を成功に導き、電解技術で支えるクリーンな未来を切り拓いていく所存です。
デノラ・ペルメレックからのメッセージ
採用希望の皆様へ
当社は電気化学と電解技術を核に、水素社会の実現や食塩電解の省エネ化など、広範な分野で社会に貢献しています。最大のテーマは「エネルギー削減」。熱い志で高度な技術的課題を乗り越えていける仲間を心よりお待ちしています。
業界のステークホルダーの皆様へ
水素社会は一社で成し遂げられるものではありません。電解槽や材料、リサイクルを担う供給側のパートナーシップを強固にしつつ、需要を創出する先駆的な企業や自治体の皆様と歩調を合わせ、着実な社会実装を進めていきたいと考えています。
デノラ・ペルメレック社員の皆様へ
安全と品質を第一に現場を支えるみなさんの尽力に、心から感謝します。柔軟にプロジェクトを推進するみなさんを誇りに思います。水素社会への挑戦はまだ始まったばかり。ともに汗をかき、我々の手で持続可能な未来をかたちにしましょう。
デノラ・ペルメレック株式会社コーポレートサイト


