Interview
世界にまだ成功例がない「浮体式」に、
50年以上受け継がれた海洋DNAで挑む
Profile
谷岡 孝一
(たにおか こういち)
日鉄エンジニアリング株式会社
取締役 常務執行役員
1963年大阪市出身
1986年神戸大学経済学部経済学科卒業後、新日本製鐵株式会社(現日本製鉄株式会社)入社
2006年、分社により日鉄エンジニアリング株式会社に社名変更後、環境・エネルギーセクター2021年洋上風力営業部長、2022年執行役員 環境・エネルギーセクター営業本部長
2024年より現職(環境・エネルギー営業本部、海洋本部、海外拠点・支店担当)
※所属・役職は取材時(2026年5月)のものです。
Profile
谷岡 孝一
(たにおか こういち)
日鉄エンジニアリング株式会社
取締役 常務執行役員
1963年大阪市出身
1986年神戸大学経済学部経済学科卒業後、新日本製鐵株式会社(現日本製鉄株式会社)入社
2006年、分社により日鉄エンジニアリング株式会社に社名変更後、環境・エネルギーセクター2021年洋上風力営業部長、2022年執行役員 環境・エネルギーセクター営業本部長
2024年より現職(環境・エネルギー営業本部、海洋本部、海外拠点・支店担当)
※所属・役職は取材時(2026年5月)のものです。
日本のグリーントランスフォーメーション(GX)において、再生可能エネルギーの主力電源化に向け期待されている「洋上風力発電」。しかし、浅瀬が少なく深い海に囲まれた日本においては、海に風車を浮かべる「浮体式」の社会実装が絶対条件だ。
世界でも本格的な商業スケールでの導入成功例がまだない浮体式洋上風力。市場からの強い逆風が吹くこの領域で、会社として最大規模の投資を敢行し、社会実装を力強く進めようとしているプレイヤーがある。日本製鉄グループのエンジニアリング中核企業、日鉄エンジニアリングだ。本事業において約43億円のGX補助金を受け、同社は北九州市の若松工場に国内最大級のクレーンを導入。2030年までに年間20〜30基の浮体式基礎を量産する体制を築こうとしている。東京ドームのグラウンド並みの大きさ(1辺100m)、東京タワー並みの重量(約4000トン)を持つ巨大な鉄の構造物を、いかにして「高速・大量生産」するのか。取締役常務執行役員の谷岡孝一氏に、日本のエネルギーの未来を担おうとする同社の不退転の覚悟を聞いた。
50年以上に亘り受け継がれている“海洋DNA”が呼び覚ます、不確実性への「最大投資」
今回、洋上風力分野への大規模な生産設備投資を決断された背景から教えてください。
当社は日本製鉄グループのエンジニアリング事業を担う会社として、環境エネルギー領域や都市インフラ領域で多種多様なプラント建設やO&M*1などを展開してきました。例を挙げれば、東京アクアライン(海上人工施設である「風の塔」および「海ほたる」)や羽田空港拡張時のD滑走路(海上桟橋部)など、50年以上にわたる海洋鋼構造物建設の実績・知見をベースに、洋上風力基礎EPC*2へ参入しています。着床式洋上風力発電では、一般海域に先行する港湾区域案件である石狩湾新港と、北九州響灘で風車基礎の建設EPCを実行し、「ジャケット式基礎」*3としては国内初となるウインドファーム認証を取得しました。これらのジャケット式基礎は、本事業の主役である北九州の若松工場ですべて製作しています。国内調達比率の向上にも大きく貢献できたと思っております。また、浮体式洋上風力発電においても福島沖の実証事業に参画して浮体の曳航、係留、設置工事の実績を有しています。
洋上風力発電は日本のエネルギー安全保障上の大きな意味を持ちます。原子力発電を除くカーボンニュートラルの主力電源として、これは必ずや普及させなくてはならない発電インフラです。それも陸上ではなく、洋上という非常に自然条件の厳しい場所に施設を建設し、日本のエネルギー政策に貢献していく。そのため、私たちが50年以上に亘り培ってきた大型海洋鋼構造物の設計、製作、据付といった海洋エンジニアリング力、いわば“海洋DNA”ともいうべきケイパビリティを十分に発揮できると考えています。
*1 O&M・・・「Operation(運転)」「Maintenance(保守・点検)」の頭文字を取った略語。完成した施設・設備の日常的な運転管理と維持メンテナンスを一体で担うサービスを指す。
*2 EPC・・・「Engineering(設計)」「Procurement(調達)」「Construction(建設)」の頭文字を取った略語。プラントや大型構造物の建設において、設計・調達・施工を一社が一貫して担うビジネスモデルを指す。
*3 ジャケット式基礎・・・風力タービンを支える海底固定用の基礎構造の一種。鋼管を格子状に組んだ立体トラス構造で、波や風の力を受け流す高い耐久性と安定性を備えている。
国(経済産業省)の「GXサプライチェーン構築支援事業」に採択されたことは、社内の投資判断にどのような影響があったのでしょうか。
今回の浮体式基礎の高速・大量生産に向けた国内最大級クレーン導入の投資決定においては、社内でも非常に大きな議論がありました。今の脱炭素化の流れというものは、不確実性を伴います。特に直近の世界情勢により先が見通せない中、浮体式洋上風力発電が本格的に立ち上がる時期がいつなのか、今投資して、回収見込みがたつのか、といった点について、さまざまな議論があったことは事実です。
しかし、当社が持つ海洋エンジニアリング力に加え、「若松工場」というアセットを活かして十分な体制を整えることで、着床式のみならず、それに続く浮体式基礎のEPCにおいても業界をリードする存在になろうという意思が固まりました。また、GXサプライチェーン構築支援事業という国の支援制度が整ったことで、民間だけでは困難な先行投資のリスクを官民で分担できることも決断の大きなドライバーとなりました。実は日本製鉄から分社して以降、今回の投資はこれまでで最大規模となります。日本の浮体式洋上風力発電の社会実装を本気で実現していくためには、絶対に必要不可欠な投資であると強い意志と覚悟で事業に臨んでいます。
北九州市「若松工場」では浮体式基礎の高速・大量生産を担う。
写真は石狩湾新港洋上風力発電所での製作風景。
造船ドックの限界を超える「50万㎡の陸上ヤード」というスケール
投資の舞台となる北九州市の「若松工場」の概要と、そこに国内最大級のクレーンを導入する狙いについて詳しく伺えますか。
北九州市に位置する当社若松工場は、50ヘクタール(50万㎡)に及ぶ国内随一の大型海洋鋼構造物製作ヤードです。本事業では、この若松工場に国内最大級のクレーンを導入し、2030年までに年間20基から30基という、世界トップクラスの浮体式基礎の高速・大量生産体制の構築を目指していきます。
浮体式基礎は、水深が深い海域において風車を海上に支える、いわば「浮く土台」です。着床式のように海底に杭等で固定するのではなく、チェーンやアンカーなどで係留する方式です。一辺約70mから100mもの大きさがあり、面積としては東京ドームとほぼ同じ、重量も3,000トンから5,000トンで東京タワーと同じかそれ以上の重量になるとても巨大な鋼構造物です。商業ベースにおいては、この巨大な鋼構造物を年間数十基というスピードで製作していく必要があります。
こうした高速・大量生産が実現できる仕組みとしては、広大なヤードのエリアを明確に分けて、大ブロック化の作業をするエリアとブロックを一体化するエリアをしっかりと区分させる点に特徴があります。大ブロック化の区画では、今回投資したクレーンを縦横無尽に使って、小さなブロックをできるだけ大ブロック化し、最終工程での一体化作業を最大限効率的に行う。これにより、高効率な大量生産につながっていくものと考えています。
海外勢や競合が既存の「造船ドック」での製造を模索する中、日鉄エンジニアリングの「陸上ヤード型」での量産には、どのような優位性があるのでしょうか。
現在、世界には浮体式基礎の形式が50種類以上あるといわれていますが、私たちの若松工場は陸上ヤードであるため、造船ドックのような幅の制約がありません。そのため、浮体式基礎のサイズに関わらず製作が可能であり、あらゆるタイプの基礎に対応できるという点に大きな強みがあります。このような製造拠点は、国内外を見渡してもきわめて珍しい存在です。
さらに、北九州という立地もビジネス面での優位性があります。北九州は日本海側、太平洋側、そして東アジアへのアクセスも極めて良好です。国内市場では、国の導入目標も踏まえると2030年代には年間約100基以上の浮体式基礎の需要があると想定されますが、若松工場であれば、建設地への輸送がしやすい上、大ブロック製造から最終組み立てまでに特化して対応することでより多くの需要に応えることが可能であると考えています。一方、海外市場に向けても、特にアクセスが良好なアジアを中心に地理的メリットを活かして、海外展開を図っていく予定です。
ただ作るのではない――世界にまだ存在しない技術を確立させる
「浮体基礎を高速・大量生産する」という挑戦において、貴社ならではの「海洋エンジニアリング力」はどのように活かされるのでしょうか。
現状、商業規模で高速かつ大量に生産する技術・実例は、世界的にはまだ確立・存在していません。私たちの最大の強みは、単に図面通りにものを製作するということではなく、設計・解析から実際の製作、そして洋上での施工までを一貫対応して全体工程を最適化することが可能な「EPC一貫対応力」にあります。
例えば、海外の浮体式基礎のコンセプトを日本国内に導入する場合でも、日本国内に適合させるといった段階で設計認証フェーズから対応することが必要であり、当社であればその対応が可能です。当社は日本製鉄グループの一員として、鋼材、溶接、防食等、鋼構造の製作に精通したものづくりのDNAを有し、50年以上にわたって海洋構造物の設計、製作、洋上施工というEPCを一貫して対応してきた蓄積と技術力を持っています。顧客である発電事業者に対して、設計フェーズからの支援、洋上施工エンジニアリングまで含むEPCを一貫で対応することで、商業規模での浮体式洋上風力発電の実現に貢献していきます。
商業化を加速させる上で、クリアすべき日本市場全体の課題や、今後の市場展望についてはどのようにお考えですか。
国内においては、着床式洋上風力もまだ始まったばかりです。まずは足元の着床式の洋上風力の導入拡大を軌道に乗せる必要があり、その先に浮体式があるというステップです。どちらも、一定規模の継続的、そして安定的な案件形成による市場創出が必要です。特に日本の自然条件、施工条件を踏まえた設計仕様とそれに見合う適正なコストに基づく実効性のある事業にしていくことが非常に重要です。
その点で、何よりも必要なのは国のさらなる強いリーダーシップです。官民の覚悟を持った連携で、いかに計画を確実に実現していくかということが今まさに問われています。さらに、基地港湾や大型の施工船といったインフラやアセットについても、まだまだ足りていません。サプライチェーンも一国だけで賄える規模ではなく、国内での供給を極力最大化させていくことが勿論肝要ですが、例えばアジア圏を視野に入れたグローバルサプライチェーンを、日本企業である我々が中心になって形成していく必要があると考えています。
逆風の今こそ、「ド真剣」に未来と向き合う
洋上風力業界は、入札制度の変遷や海外のインフレ影響など、ここ数年「逆風」や足踏み感があるとの指摘もあります。プロジェクトを推進する社内メンバーや、これからの未来を担う次世代への想いをお聞かせください。
洋上風力は一般海域公募第一ラウンドの影響等もあり、現在、逆風下にさらされている状況にあることは否めません。しかし、日本のエネルギー安全保障上の意義や、原発を除く再生可能エネルギーの主力電源化に向けた洋上風力への期待役割というものは、1ミリたりとも変わっていないと思います。事業として順風満帆とはいえない中にあっても、決して本質を見失うことなく信念を持ち続け、未来を形にしていくために着実に歩みを進める。これこそが私たちの使命です。
当社では、これまで子会社の形で運営しておりました若松工場を再統合(直営化)して洋上風力向け基礎製作の実行体制を強化したほか、営業・計画・設計・施工を担う洋上風力専任組織を維持強化してきました。さらに自社製造拠点のカーボンニュートラル化にも着手しており、若松工場でも太陽光発電、蓄電設備、そしてこれらを運用する独自のエネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入して、サプライチェーン全体のグリーン化も推進しています。
とにかく、この事業ではすべてがチャレンジの連続です。今まで誰も足を踏み入れたことのない領域で、関係する全員が強い思いを持って、事業と『今まで誰も足を踏み入れたことのない領域で、関係する全員が強い思いを持って、事業と『ド真剣』に向き合い、浮体式洋上風力の未来に向かって全力で加速していきたいと思います。
日鉄エンジニアリングからのメッセージ
採用希望の皆様へ
当社は洋上風力をはじめとして『未来に、かたちを。社会に、力を。』を理念に掲げた企業です。皆さんが持つみずみずしい感性は、持続可能な社会に向けた大きな課題を解決するために必要不可欠なものです。ぜひこの大きな舞台で力を発揮し、私たちと一緒に未来を創っていきましょう。
業界のステークホルダーの皆様へ
洋上風力は将来の日本のエネルギーにとって不可欠な電力インフラです。政府、地元自治体、サプライチェーンを担っていただく国内外の関係企業、そして発電事業者の皆様等、このバリューチェーンを『本気』で担おうとされているステークホルダーの皆様と、私たちは海洋エンジニアリング力をベースに貢献してまいります。
日鉄エンジニアリング社員の皆様へ
逆風下にあったとしても、再エネ主力電源化に向けた洋上風力への期待感は依然として変わりません。本質を見誤らず、着実に歩みを進めていくことこそが当社の使命です。信念を持ち続け、未来をかたちにしていきます!
日鉄エンジニアリング株式会社コーポレートサイト


