Interview

高炉から革新電気炉へ、
鉄鋼250年の歴史を塗り替えるプロセス転換の全貌

JFEスチール株式会社

Profile

朝比奈 健
(あさひな たけし)

JFEスチール株式会社
専務・GX戦略本部長

1991年川崎製鉄株式会社入社
2003年4月日本鋼管(NKK)との合併により現・JFEスチール株式会社の
誕生後、2014年JFEホールディングス株式会社企画部長、2016年JFEス
チール株式会社 西日本製鉄所(福山地区)製鋼部長を歴任
2021年 常務執行役員・西日本製鉄所 倉敷地区副所長を経て、2024年 4
月より現職

Profile

朝比奈 健
(あさひな たけし)

JFEスチール株式会社
専務・GX戦略本部長

1991年川崎製鉄株式会社入社
2003年4月日本鋼管(NKK)との合併により現・JFEスチール株式会社の
誕生後、2014年JFEホールディングス株式会社企画部長、2016年JFEス
チール株式会社 西日本製鉄所(福山地区)製鋼部長を歴任
2021年 常務執行役員・西日本製鉄所 倉敷地区副所長を経て、2024年 4
月より現職

世界トップクラスの鉄鋼メーカーであるJFEスチール。GHG*1多排出産業である一企業として、気候変動問題を極めて重要な経営課題と捉え、GXプロジェクトを社運を懸けた事業構造の転換と位置づけ、取り組みを加速させている。このうち、グリーンイノベーション基金の支援を受けて実証試験に取り組んでいるのは、
カーボンリサイクル高炉、水素直接還元炉、革新電気炉という3つの中核技術。すでに、高炉から革新電気炉へのプロセス転換を機関決定。2030年度にGHG排出量を30パーセント削減(2013年度比。いずれもScope1、2*2)する目標については見通しが立ちつつあり、次のフェーズへ踏み出している最中にある。GXプロジェクトの背景とねらい、そしてGXスチールの未来像を、専務・GX戦略本部長の朝比奈健氏に語っていただいた。

*1 CO₂をはじめとする温室効果ガスの総称。
*2 Scope1は自社の事業活動によるGHG排出量。Scope2は他社から購入した電気や熱の使用によるGHG排出量。

鉄鋼メーカーとしてGX化の未来を拓く

今回、GXプロジェクトとして、製鉄プロセスの脱炭素化へ経営資源を投入する決断をされました。今回の事業における背景とねらいを、鉄鋼業の現状も交えて伺えますか。

当社は、製鉄プロセスを脱炭素化していく流れにおいて、グリーンイノベーション基金の支援を受け、さまざまな技術開発を行っています。現在はおもに3つの革新技術開発に取り組んでいますが、そのうち高炉から革新電気炉へのプロセス転換について一定の目処が立ち、投資を決定しました。2027年度に改修時期を迎える岡山県にある西日本製鉄所(倉敷地区)の高炉を革新電気炉へプロセス転換し、その革新電気炉で高級鋼を製造することで、CO₂排出量の少ないGXスチールを市場に供給したいと考えています。

鉄鋼業は、日本全体が排出するCO₂のうち、13パーセントを占めるGHG多排出産業です。当社は日本鉄鋼連盟との共通の目標として、2030年度に2013年度比でCO₂を30パーセント以上削減(以下、2030年度30パーセント以上削減)という目標数値を設定しています。この目標は社会との約束であり、確実に達成しなければなりません。

現在の製鉄所は、外部電力に頼らず、副生ガスによる自家発電で所内電力を賄う「エネルギー自己完結型」の洗練されたエコシステムを確立しています。長年積み上げた省エネ技術の結晶であり、極めて高効率ですが、製造プロセスにおいて石炭を還元材として使う限りCO₂は発生します。現段階では、3つの革新技術のうち、「2030年度30パーセント以上削減」に適用できるものは革新電気炉のみとなります。私自身は材料工学が専門で、鉄に魅せられ当社に入社した人間です。約250年前、産業革命の時代から数多のエンジニアが関
わって確立された高炉法を、脱炭素のために別の手法に変えていくこの時に、胸を高鳴らせています。

本事業は、GX施策の一丁目一番地です。まずは高炉から革新電気炉へのプロセス転換を成功させ、GHG多排出産業として率先してGXを進めることで、日本全体におけるGXの機運醸成をねらいとしています。

鉄鋼メーカーとしてGX化の未来を拓く

革新電気炉で高品質鋼材を製造し、CO₂削減と資源循環を実現

開発中の革新技術のうち、革新電気炉へのプロセス転換について詳細をお聞かせください。また、電気炉以外で開発中の技術についても教えてください。

当社は高炉のある製鉄所が3カ所あり、そのひとつ、西日本製鉄所(倉敷地区)には高炉が3基あります。そのうちの1基を改修するタイミングで、年産約200万トンの革新電気炉へのプロセス転換を実施します。これは世界最大級の炉容積です。また、これまで培ってきた高品質鋼材の製造技術は、革新電気炉へのプロセス転換にも活きる我々の強みといえます。

プロセス転換について、我々の前には3つの山が立ちはだかっています。
1つめは技術・品質です。これまで、電気炉で製造した鋼材は高炉に比べると品質が劣るといわれてきました。その要因は、窒素やリンといった不純物のコントロールが難しいからです。そこで我々は実験を重ね、不純物の抽出・除去および技術開発を進め、革新電気炉における高級鋼の製造法を確立しました。基礎実験で理論的に製造可能であるという定量データが出ており、現在はさらなる技術革新が可能か、ラボで実証試験を進めている最中です。
2つめは、インフラ・燃料です。まずハード面において、西日本製鉄所(倉敷地区)に電力供給をいただいている中国電力さんの協力を得て、送電網や受電設備を整えます。一方、ソフト面においては、鉄鉱石から鉄を取り出す際の還元材を石炭から水素に変える必要がありますが、現状では道半ばです。
3つめは、GXスチールの需要面です。電気炉における高級鋼製造は未踏の世界ゆえ、予見性がありません。革新電気炉でのGXスチール生産量は200万トンを予定していますが、これを満たすお客様ニーズが本当に出てくるのか未知数です。

これらの山を越えたときには、3つのメリットが考えられます。1つめはCO₂の排出を大幅に削減できること。2つめは、国内資源の循環を加速させられること。現在、年間500万トンから700万トンもの鉄スクラップが海外へ輸出されていますが、鉄鉱石をゼロから溶かすよりも、すでに鉄として使われてきたスクラップを電気炉で再利用する方が資源の有効活用につながります。3つめは、GXが社会の中で認められること。広く認知されればさまざまなビジネスチャンスにつながり、市場が開拓されていくでしょう。

この電気炉と同時に開発を進めているのが、カーボンリサイクル高炉と水素直接還元炉です。カーボンリサイクル高炉は、高炉から排出されるCO₂を分離・回収し、再生メタンとして高炉に戻す手法です。水素直接還元炉は、低品位の鉄鉱石を水素で還元する手法です。両方とも、CO₂排出量の大幅な削減が見込めます。

官民一体で200万トンを社会に届ける

電気炉で製造したGXスチールの市場創出に向けて、どのような構想を練り、どのような分野との協力を視野に入れていますか。

電気炉で製造した鋼材は、プロセス転換にかかるコスト、換言すれば、グリーンな価値が乗るため価格は高くなります。単価が上がるからといって、これまで高炉で製造してきた鋼材と比べ、著しく品質が向上するというわけではありません。先進的な価値観を持つイノベーターの方々はGXスチールの価値を既に認めてくださり、「購入したい」「使いたい」という言葉をいただいていますが、この電気炉で製造する鋼材は200万トンあります。アーリーアダプターが現れ、イノベーションが成功するかどうかは、予測が難しいところです。

一方で、社会的にはScope 3*3を重視する気運が高まっており、政府のGX政策においても、GXスチールの製造・利用に対する調達支援や税制面での優遇措置が具体化しつつあります。最終的には、グリーンな価値が世の中に認められるかどうかにかかっていますが、個社としても、社会全体としても、GXスチールの価値の向上、そして、需要創出が急務であると捉えています。

当社のお客様では、自動車業界をはじめ全分野にGXスチールの採用が拡大していますが量は限定的です。今後の用途として考えられるのは、まずは公共工事です。例えば、GXスチールの優先調達が決定すると、多様な分野・業界でGXスチールの採用がさらに拡大していくのではないかと期待しています。また、当社の成長戦略としても、鉄鋼業界全体の指針としても、造船分野への需要にGXスチールを絡めることができれば、さらに弾みがつくのではないかと予想しています。

もちろん、リスクケースにつきましても多角的な視点から熟慮しています。政府によるCAPEX支援*4に加え、戦略分野国内生産促進税制による後押しなどを想定し、その支援と投資リスクのバランスを考慮しつつ、最終的な意思決定をしています。逆をいえば、CAPEX支援や税制支援がなければ非常に厳しい事業であるということです。そういう意味では、政府に対し感謝の念に堪えません。
我々は、常に世界最高の技術をもって社会に貢献することを企業理念としてうたっています。また、鉄鋼メーカーとして、世界的な競争力を備えていると自負しています。GHG多排出産業の一つである日本の一企業として、責任を持って市場創出に取り組んでまいります。

*3 サプライチェーン全体のGHG排出量。
*4 設備投資に対する政府からの資金的な補助・助成。

グリーンな価値、グリーンな世界を未来へと広げていく

この挑戦の先に、どのような未来を見据えていますか。また、今回のプロジェクト全体を通じた決意を聞かせてください。

まず、2028年に革新電気炉の運用を始める予定です。「2030年度30パーセント以上削減」についてもほぼ目処が立っています。2030年度以降も、高炉を改修するタイミングでカーボンリサイクル高炉や水素直接還元炉を実用化し、最終的には「2050年カーボンニュートラル実現」を目指します。

現在、世界情勢の影響を受けてエネルギー動向は非常に不安定です。一方、大きな潮流として地球環境の改善に向けたGXはますます加速し、GXスチールがトレンドになるという基本路線は変わらないはずです。我々はやるべきことを粛々と進めていきます。当社の本事業は、脱炭素と産業競争力を両立させる試金石、日本の鉄鋼業界におけるGXの象徴になるはずだと確信しています。社会の至るところで使われる鉄がGXスチールに切り替わることで、グリーンな世界が広がっていくことを願っています。

当社の前社長である北野*5は、かつて「孫が生まれると、2100年を我がこととして考えようになる。同時に、GXも我がこととして捉えるようになった」と話していました。私はそれまで、2100年を遠い未来と捉えていましたが、GXを進めていくうえでこの視点は大切だと感じています。GX戦略本部長という与えられた使命を全うするため、本事業を我がことと捉えて業務にあたっています。同時に、たくさんの方が長期的な視点で未来へ思いを馳せていただくと、GXの重要性がさらに浸透していくのではないかと予測しています。

我々のビジョンは、鉄鋼業界でカーボンニュートラルのトップランナーになることです。事業機会を捉えて十全なパフォーマンスを発揮し、社会のGXに向けて貢献していく所存です。当社のパーパスは、「ねがう未来に、鉄で応える。」です。本事業において、「鉄」は「GXスチール」に置き換えてもかまいません。GX戦略本部のみならず、全社員が人々の豊かな暮らしを支えるために「鉄で応える」という共通認識を持っています。長い年月をかけて洗練してきた製鉄プロセスが大きく変わる時代の転換点に立ち、GXスチールで社会課題を解決し、この世界に笑顔を増やしていきたいです。

*5 北野嘉久氏。現JFEホールディングス代表取締役社長。

JFEスチールからのメッセージ

就職希望の皆様へ

鉄鋼業界はいま、大きな変革期を迎えています。長年培ってきた高炉から革新電気炉へのプロセス転換を成功させるために、ともにチャレンジしましょう。定量的根拠に基づき業務にあたることのできる仲間を歓迎します。

業界のステークホルダーの皆様へ

「2050年カーボンニュートラル実現」は一社では成し得ません。建設・エンジニアリングを担う皆様から市場のお客様、そして一般消費者の方々に至るまで、全サプライチェーンが一致団結し、未来へ向けともにチャレンジしましょう。

JFEスチール社員の皆様へ

革新電気炉へのプロセス転換はGXの成否を握る最優先課題です。社内の英知を結集し、2028年度の早期稼働に向け不退転の決意で臨んでいます。この挑戦こそがカーボンニュートラルへの試金石。使命を胸に、一丸となり完遂しましょう。

JFEスチールからのメッセージ

JFEスチール株式会社 コーポレートサイト