Interview
国産技術で洋上風力発電の
未来を切り拓く
Profile
駒井 恵美
(こまい えみ)
株式会社駒井ハルテック
代表取締役社長
1964年生まれ、兵庫県出身
1987年立教大学経済学部卒業後、1988年株式会社駒井鐵工所(現株式会社駒井ハルテック)入社
1997年取締役経営企画室長、2002年執行役員経営企画部長兼ニュービジネス開発担当、2010年執行役員環境事業部担当を歴任
2021年取締役兼執行役員、2022年常務取締役兼常務執行役員、2025年専務取締役兼専務執行役員を経て、2026年4月より現職
Profile
駒井 恵美
(こまい えみ)
株式会社駒井ハルテック
代表取締役社長
1964年生まれ、兵庫県出身
1987年立教大学経済学部卒業後、1988年株式会社駒井鐵工所(現株式会社駒井ハルテック)入社
1997年取締役経営企画室長、2002年執行役員経営企画部長兼ニュービジネス開発担当、2010年執行役員環境事業部担当を歴任
2021年取締役兼執行役員、2022年常務取締役兼常務執行役員、2025年専務取締役兼専務執行役員を経て、2026年4月より現職
橋梁事業、鉄構事業に加え、再生可能エネルギー事業にも進出している駒井ハルテック。陸上風車に関して20年の実績を誇る同社が、GXプロジェクトとして洋上風車タワーの生産に経営資源を集中させ、社会実装の急先鋒を担っている。欧米主導の基準をクリアするための工場認証取得、ロボット導入による生産の合理化と日本仕様の両立、地域と連携したサプライチェーンの強靭化――。国産タワーを日本の海に浮かべるため、成すべきことにひとつひとつ向き合い、日本のエネルギー安全保障を支えるという使命感を胸に未踏の領域へ踏み出している。この大型プロジェクトを牽引するのは、代表取締役社長の駒井恵美氏。洋上風力発電の国産化はもちろん、地域と連携したサプライチェーンの構築までを視野に入れ、全社一丸となって大きな飛躍を果たそうとしている。
鋼構造物の製造技術を活かしたタワー生産
今回、GXプロジェクトとして洋上風車タワーの生産に経営資源を投入する決断をされました。今回の事業における背景と狙い、また、御社の再生可能エネルギー分野における歩みについて伺えますか。
今、この投資に踏み切ることは、当社にとって不可欠な『自己変革』です。日本の人口が減少傾向にあるなか、国内の各種インフラは成熟期を迎え、既存構造物の長寿命化が主眼に置かれつつあります。陸上での大規模開発が困難な日本において、広大な海域を活かした洋上風車は、効率的かつ合理的なエネルギー事業といえます。この成長市場へ早期に参入することで、事業の持続性を高め、次世代の技術者が最先端の技法に触れる機会を確保できると判断しました。今回の決断の根底には、日本の海域に日本で製造した風車タワーを建てたいという思いがあります。
風力発電の世界では、コストと技術力を常に海外メーカーと比較されます。自動化、ロボット化、AI化を導入していかないと生き残りが難しい中で、最新鋭の技術を導入して洋上風車タワー専用の生産体制を構築することは、当社がものづくりを続けていくための大切な取り組みであると位置づけています。また、日本は資源が豊富ではなく、エネルギー自給率も高いとはいえません。地域で再生可能エネルギーをつくり、地域で循環させていくことも本事業の狙いのひとつです。
当社は事業の主軸となる鋼構造物の製造で培った技術を活かし、約20年前から陸上中型風車の製造・販売に携わってきました。2022年からはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)に創設された「グリーンイノベーション基金」のご支援を受け、千葉・富津工場の特殊加工棟と呼んでいた建屋を一新し、洋上風車タワー専用の生産設備を構築しました。さらに、タワーの塗装・艤装*1を行う設備を新たに設け、現在はタワー製造工場としての認証を受けるべく、準備に取り組んでいます。
陸上風車と洋上風車の製造プロセスには共通項があります。たとえば、海外のお客様との取引において、海外の第三者認証機関の認証を取得して風車タワーを製造・納入する過程はほぼ同様です。認証機関とのやり取りには時間もコストもかかりますが、洋上風車のタワーの製造においても、これまでの経験を確実に活かせます。欧米の規格に適合しつつ、鋼構造物メーカーとして実績を踏まえた最適な提案ができると考えています。
ちなみに、洋上風車のおもなパーツは、風を受けて回転する羽を指すブレード、発電機や増速機を収納している心臓部のナセル、ブレードとナセルを支える円柱状のタワー、そして、風車そのものを海底に固定する土台のモノパイルやジャケットに分けられます。鋼構造物製造と中型風車製造の経験を応用できる風車タワーの生産は、当社の技術を活かせる絶好の機会といえます。
*1 塗装したタワーにあらゆる設備・部品を取り付ける工程。
工場の認証取得とライン自動化の両輪を推進
洋上風車タワーの製造に必要な工場・設備の認証取得の重要性について詳しくお聞かせください。また、塗装・艤装を含めた御社の技術の特徴を教えてください。
橋梁・鉄構の場合は、受注後に製品を生産して納入しますが、洋上風車のタワーは、欧米の認証機関による厳格な審査プロセスが必要です。風車メーカーが型式認証を維持・取得するためには、タワーのサプライヤーが製造妥当性の評価を受け、認定工場としての承認を得ていることが必須条件となります。
認証機関の審査内容を大きく分けると、安全・品質管理に関する書類のチェック、工場・生産設備の審査、製造したタワーの立ち会い検査になります。欧米の認証基準に基づく審査に加え、日本の海域に設置する鋼構造物の厳しい要求仕様があり、両者の基準を満たすことで審査をパスすることができます。当社はすでにISO9001(品質マネジメントシステムに関する国際規格)とISO14001(環境マネジメントシステムに関する国際規格)を取得していますが、さらに別途風車メーカーによる認証が必要なのです。
洋上風車のタワーは塩害対策など、陸地よりも過酷な環境に耐えうる品質が求められます。海上で20年、30年と耐えられるよう、風車メーカーから求められる条件を満たしつつ、日本で長く鋼構造物を扱ってきた経験を活かして塗装・艤装にも取り組んでいきます。
ちなみに、大型構造物におけるブラスト*2・塗装の自動化は、ヨーロッパのメーカーでも実現できない高い障壁となっています。当社のタワー工場・生産設備においては、タワーを効率的に製造するため、ブラスト・塗装用のロボットを生産ラインで稼働させて合理化を目指しています。一度、視察に立ち会っていただいたイギリスの風車メーカーの技術者からは「この工場設備であればタワーを生産できるでしょう」と太鼓判を押していただき、「国を問わずものづくりの心は通じるものだ」と、自信につながりました。
陸上風車のタワーが4MW(メガワット)未満の中、海外製の洋上風車向けのタワーは、近年、15MW以上の大型サイズにシフトしつつあります。タワーは構造物として巨大であり、溶接量も膨大です。小型であれば何度でも試作ができますが、大型ではそれがコスト・輸送両面で難しく、数少ない機会でいかに製造技術を磨くかが課題となっています。現在は、技術者一人ひとりが直径8~10mのタワーと対峙し、日々、研鑽を積んでいます。
*2 防錆処理を行う前の下地処理として研削材を高速で投射して、鋼材表面を清浄化し塗料の付着力を確保するための、表面処理の方法
国内仕様の確立でサプライチェーンを強靭化
洋上風車の普及により、社会やステークホルダーの皆様にどのような価値を提供できると思いますか。また、国産化の重要性、国際競争における強みについても教えてください。
当社のお客様は風車メーカーですが、その先には洋上風力発電事業を行う方々がいます。国内の事業者様に日本製の大型タワーを供給できれば、維持補修の面からもプロジェクト全体の安定性向上に寄与できるものと考えます。
海外では風車の大型化が進んでおり、大型タワーの工場が次々に立ち上がっています。これから日本の洋上風車の市場が形成されていく局面において、国内のタワーメーカーとしての経験を反映させることで、日本の気象・海象条件に適応できるタワーの製造が見込めます。
現在、日本の洋上風力発電は欧米メーカーが主導しており、規格も材料も海外仕様に依存しています。一方、日本は地震国であり、夏から秋にかけては台風の影響を強く受けるため、気候風土を考慮した耐久性を備えるタワーを生産しなければなりません。
欧米メーカーと競っていくには、ロボットを駆使した生産工程の合理化とコストの低減が必須です。国内メーカーの塗料・部材の使用により、輸送コストの低減や迅速な保守体制の構築といった付加価値が提示できれば、国内サプライチェーンの強靭化に繋げられる可能性が高くなります。今後、日本のマーケットが立ち上がっていく中で、国内メーカーとしての強みを活かして競争力を高め、メンテナンスやリプレイスなどをフレキシブルに行っていきたいです。
洋上風車の取り組みにつきましては、自治体やメーカーから興味をお寄せいただき、「風力発電に関わる機会はないか」とたくさんのお問い合わせをいただいています。当社の洋上風力タワー事業が軌道に乗れば、サプライチェーンづくりへの着実な一歩が踏み出せるはずです。行政、港湾関係者、地元企業、国内外の技術パートナー、金融機関などと地域に根差した連携を図り、長期的なネットワークの構築に尽力していきます。
再生可能エネルギーインフラの普及で持続可能な未来へ
この挑戦の先に、どのような未来を見据えていますか。また、今回のプロジェクト全体を通じた決意を聞かせてください。
洋上向け大型タワーを生産する工場として、国内で最初のチャンスをいただいていますので、まずはこの好機を逃さず、日本の再生可能エネルギー産業の基盤を築きたいです。効率的な生産、安定的な供給のできるシステムを構築し、洋上・陸上問わず風資源を活かせる場所に風車を建て、再生可能エネルギーによる安定した電力提供を可能にしていきたいです。
エネルギーリスクが顕在化する昨今です。地政学的に考えると、大小問わず日本製の再生可能エネルギーを増やすことは、安定供給の要となります。また、長期的に見るとほぼ100%リサイクルできる鋼製の大型タワーはCO₂の削減にも寄与すると思います。洋上風力のような大規模な発電能力を持つインフラの普及こそが、カーボンニュートラル社会を実現するカギになると信じています。
私たちはこれまで、橋梁分野では本州四国連絡橋、鉄構分野では新国立競技場や東京スカイツリーの施工に携わり、ノウハウを蓄積してきました。今回の新たな挑戦で、社内ではものづくりへのモチベーションが確実に高まっており、さまざまな部署の知恵を結集させています。ベテランから若手まで、ものづくりの醍醐味を味わい、その経験を糧にしてほしい――。それが私の願いです。
幸いにも、地元の自治体のバックアップにより地域産業ネットワークの構築が進んでおり、若者の雇用創出やキャリア形成の場となることへの期待を実感しています。気候変動や地域活性化など、持続可能な開発への関心はますます高まっています。風車に興味を持ってくれる若い方々のために、さまざまな課題を乗り越え、次世代に夢をつなぐために邁進してまいります。
駒井ハルテックからのメッセージ
採用に関心をお持ちの皆様へ
グローバルなコミュニケーションと地道なものづくりの両輪が必要とされる私たちの仕事は、たしかなやりがいと達成感を味わえます。鋼構造技術のノウハウを活かし、ともに再生可能エネルギー分野へチャレンジしましょう。
業界のステークホルダーの皆様へ
高品質・低コストな洋上風力を実現するためには、地域と連携したサプライチェーンの確立が必要です。つくる側から使う側まで、ステークホルダーの皆様と手を取り合い、ものづくりの力で地域産業と日本の未来をともに支えていきましょう。
駒井ハルテック社員の皆様へ
日本初の洋上風力タワー製造という大きな挑戦に、時にはくじけそうになることもありますが、先輩から受け継いだ技術は必ず活きます。日々の研鑽を信じ、私たちの手でつくり上げた国産タワーを、必ず日本の海に浮かべましょう!
株式会社駒井ハルテック コーポレートサイト


