Interview

鉄より強い繊維ロープが洋上風力を
未来へ曳航する

ナロック株式会社

Profile

寺本 美友紀
(てらもと みゆき)

ナロック株式会社
専務取締役

1978年生まれ、和歌山県出身
2003年甲南女子大学大学院文学研究科修士課程修了後、NI帝人商事株式
会社(現帝人フロンティア株式会社)入社
2010年内外製綱株式会社(現ナロック株式会社)入社
2011年取締役を経て、2018年2月より現職

※所属・役職は取材時(2026年3月)のものです。

Profile

寺本 美友紀
(てらもと みゆき)

ナロック株式会社
専務取締役

1978年生まれ、和歌山県出身
2003年甲南女子大学大学院文学研究科修士課程修了後、NI帝人商事株式
会社(現帝人フロンティア株式会社)入社
2010年内外製綱株式会社(現ナロック株式会社)入社
2011年取締役を経て、2018年2月より現職

※所属・役職は取材時(2026年3月)のものです。

鉄のワイヤロープよりも強い繊維ロープを作るメーカーが大阪にある。ロープメーカーの老舗、ナロック株式会社は、浮体式洋上風力発電の核心部となる超大径係留索の製造に挑んでいる。直径300ミリ、1本あたりの長さ500メートルにおよぶ、国内未踏の巨大な洋上風力をつなぐ「命綱」だ。「これは既存事業の延長線上にある、史上最大のチャレンジ」。専務取締役の寺本美友紀氏の視線の先には、GXに貢献していく明るい未来がある。創業から90年、海と共に歩んできたロープメーカーが、なぜ今、国家のエネルギー安全保障の重要なピースとなる事業に身を投じるのか。その情熱と戦略を紐解く。

次の100年も社会から必要とされる存在となるためのGX事業

経済産業省のGX支援事業に採択され、ナロックとして過去最大規模の投資に踏み切られました。老舗のロープメーカーが、なぜこのタイミングで洋上風力という国家プロジェクトに呼応することを決めたのでしょうか。

私たちが次の100年も社会から必要とされる存在であるために、この挑戦は避けて通れないと感じました。ナロックは昭和10年の創業以来、船舶用係留ロープを主軸に、常に現場の安全を守り続けてきました。しかし、人口減少や産業構造の激変を前に、我々が培ってきた『ロープでつなぐ技術』をどう次世代につなぐべきか。その答えを探していた時、政府が打ち出した洋上風力発電の国内調達率向上という方針、そして今回のGX支援事業に出会ったのです。

本プロジェクトにおいて、当社では前例のない係留索の製造拠点として和歌山市雑賀崎に『ナロックウインド』という新工場を建設し、ドイツから世界最大級の製造機械を導入することにしています。当社にとっては大規模なプロジェクトですので、社内でも『本当にやり切れるのか』という慎重な意見はありました。しかし、2040年までに国内調達率を65%まで引き上げるという国のビジョンに対し、ロープの国産化で応えられるのは我々しかいないという自負もありました。この大きな旗を掲げることで、100年企業への光を灯せると確信したのです。

次の100年も社会から必要とされる存在となるためのGX事業

大型船の係留ロープをはじめ、建設現場、送配電工事、テーマパークなどさまざまな分野でナロックのロープが使用されている。同社のスーパー繊維ロープは軽くて強靭。150tの切断荷重で船を固定でき、ワイヤロープの6分の1の重さで同じ強度を実現。

政府の支援を受けることの意義を、経営の視点からどう捉えていますか。また、これまでの脱炭素への取り組みとの繋がりは。

中小・中堅企業にとって、これほど大規模な先行投資を単独で行うのは非常にリスクが高いのが現実です。しかし、国の支援があることで、不確実な新市場に対しても『予見性』を持って投資に踏み切ることができました。これは一企業の利益のためだけではなく、日本のエネルギー安全保障を支えるサプライチェーンを構築するという公的な側面も強いプロジェクトです。

実は当社は、これまでも地道に脱炭素に取り組んできました。工場の全照明をLED化し、機械の省力化を進めるなど、消費電力の削減という点では着実に成果を上げてきました。しかし、今回のプロジェクトは次元が違います。自社の排出量を減らすフェーズから、社会全体の脱炭素を支える『商材』を生み出すフェーズへと、文字通りトランスフォーメーションしたといえます。創業から続く『常に新しいことにチャレンジして成長する』というDNAが、国の政策と合致した瞬間だったと感じています。

直径300ミリ、国内初となる「巨大な係留索」の技術的挑戦

今回導入される「超大径係留ロープ」とは、具体的にどのような技術的突破口になるのでしょうか。従来の製品や、海外勢の競合製品との違いについても伺えますか。

私たちが製造しようとしているのは、直径300ミリ、1本あたりの長さが500メートルを超える合成繊維ロープです。これまでの当社の最大サイズが150ミリでしたから、直径で2倍、断面積で見ればさらに巨大な未踏の領域です。浮体式洋上風力発電において、ひとつひとつの巨大な風車を海上で繋ぎ止める『命綱』には、これまでにない強度と耐久性が求められます。

なぜ、金属製のチェーンではなく『繊維』なのか。そこが今回のGXの核心です。繊維ロープは水中でほぼ重力を持たず、重さはチェーンの約10分の1になります。これにより、設置作業を行う船舶の小型化が可能になり、建設コストを劇的に下げることができます。さらに、長期運用を想定した場合、塩害による腐食リスクがない繊維は、金属のチェーンをしのぐ優位性を持ちます。現在、世界的に浮体式へのシフトが進んでいますが、この巨大サイズを均一な品質で製造できる体制を国内に持つことは、日本の再エネインフラにとって極めて大きなアドバンテージになります。

直径300ミリ、国内初となる「巨大な係留索」の技術的挑戦

浮体式洋上風力の風車や発電設備をつなぐためには、超大径係留ロープ3本が使われる。

製造にあたって、特にチャレンジングな点、あるいはナロックならではのこだわりはどこにありますか。

直径300ミリともなると、機械も工場の天井高もすべてが規格外です。ロープは生き物のように繊細で、編み上げる際のテンション(張力)がわずかに狂うだけで、設計通りの強度は出せません。私たちは長年、あらゆる素材メーカーさんとお取引があり、それぞれの繊維の特性を熟知しています。スーパー繊維を含め、要求される素材で緻密に編み上げる。この『加減』こそが、我々が90年かけて磨いてきた職人技です。

また、今回はドイツから最新鋭の機械を導入しますが、それを使いこなすのは我々の技術者です。海外製の機械をそのまま使うのではなく、ナロック流の品質管理をいかに組み込むか。今回の支援によって、ハード面では世界最先端の設備が整いますが、そこに当社のソフト面(経験に基づいた技術)を融合させることで、世界に誇れる『NAROC品質』を確立したいと考えています。単に大きいものを作るのではなく、長年月にわたって海の中で風車を支え続ける『究極の信頼』を編み上げることが、我々の使命です。

サプライチェーンの国産化が拓く、エネルギー自給の道

政府のGX政策において、サプライチェーンの強靭化は重要なテーマです。ナロックの事業が、日本の産業競争力や社会課題にどう貢献するとお考えでしょうか。

現在、洋上風力の主要部材の多くは海外メーカーに依存しています。しかし、保守点検やリプレイスを考えた時、国内に製造拠点があることの安心感は計り知れません。私たちが和歌山に新工場を構えることは、単なる一工場の新設ではなく、日本の海を日本の技術で守るための『戦略拠点』を作ることだと考えています。

私たちがロープを1本編むごとに、海外からのエネルギー輸入への依存度がわずかずつでも減り、日本のエネルギー安保が強靭になっていく。その手応えこそが、今回の事業の最大の意義です。また、このプロジェクトは地域経済の活性化という側面でも大きな意味を持ちます。和歌山・雑賀崎という場所で、世界に通用する最先端のGX商材をつくる。それが、地方における新しい雇用の形や、産業のプライドを取り戻すことに繋がれば、これほど嬉しいことはありません。

「繊維」という伝統産業がGXの主役になる。このパラダイムシフトをどう捉えていますか。

非常に面白い時代になったと感じています。かつて繊維は日本の輸出の主役でしたが、時代と共にその立ち位置は変わりました。しかし今、再び『繊維』がカーボンニュートラルという世界的な課題を解決するキーデバイスとして脚光を浴びています。鉄鋼や製紙といった排出削減が困難な産業の皆さんと共に、我々もまた自らの技術を環境価値に転換していくことが重要です。

私たちのロープを直接目にする機会は少ないですが、海の下で人々の生活を支える電力を守っていく役割を担おうとしています。目に見えないところで社会の基盤を支えるというロープメーカーの矜持を、GXという新しい文脈で表現できることに非常にやりがいを感じています。日本の繊維技術には、世界を変える力がまだ眠っている。それを証明するのが、ナロックの役割だと思っています。

サプライチェーンの国産化が拓く、エネルギー自給の道

2012年完成の展示室のジオラマ [Our Field] には、「未来」として洋上風力発電が盛り込まれた。

2030年の結実へ ―― 「明るく元気に」紡ぐ未来

今後の具体的なロードマップと、目指すべき未来の姿についてお聞かせください。2030年には、どのような景色が見えているのでしょうか。

まずは2030年までに、30基分以上の係留ロープを供給できる体制を確立することが当面の大きな目標です。和歌山の新工場をフル稼働させ、浮体式洋上風力の社会実装を加速させる。しかし、それはゴールではありません。その先には、アジアをはじめとする世界の海で、ナロックのロープが風車を支えている景色を見据えています。

私たちは社内で『明るく元気に前向きに』という言葉を大切にしており、行動基準のひとつに「仕事は、笑顔と笑声で明るく楽しくしよう」があります。正直、直径300ミリという未知の領域への挑戦には、不安がないといえば嘘になります。しかし、暗い顔をしていては新しいアイデアも生まれません。専務である私自身が、誰よりもこのプロジェクトを楽しみ、ポジティブなエネルギーを発信し続ける。その空気が工場全体に伝わり、最高の一本が編み上がる。そんな組織であり続けたいと思っています。ナロックが紡ぐ一本のロープが、持続可能な未来へと続く確かな絆になっていけたらと思います。

ナロックからのメッセージ

採用希望の皆様へ

世界を変える力は、一見アナログな『繊維』の中に眠っています。和歌山から世界へ、巨大なインフラの命綱を送り出す。この手応えのある仕事に、あなたの情熱をぶつけてみませんか。変化を楽しみ、共に未来を編む仲間を待っています。

業界のステークホルダーの皆様へ

日本の洋上風力発電を成功させるには、官民の強固な連携が不可欠です。ナロックは係留ロープのスペシャリストとして、皆様と最適なソリューションを共創していきます。共に日本の海を、新しいエネルギーの源泉に変えていきましょう。

ナロック社員の皆様へ

皆さんの手元にある一本の糸が、やがて日本の未来を照らす電力の支えになります。この史上最大の挑戦を、誇りを持って明るく乗り越えましょう。新しいナロックの歴史を刻むのは、皆さん一人ひとりの挑戦心です。全社一体で完遂させましょう!

ナロック株式会社 コーポレートサイト

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