Interview
「諦めていた場所」をすべて発電所に変える
「設置場所革命」
Profile
上脇 太
(かみわき ふとし)
積水ソーラーフィルム株式会社
代表取締役社長
1960年京都府出身
1983年東京工業大学工学部卒業後、積水化学工業入社
2011年執行役員就任
住宅部門で企画管理・商品開発を経て、2020年取締役専務執行役員就任
ESG経営推進、新事業開発、経営戦略を担当し、2025年より積水ソーラーフィルム株式会社代表取締役社長
Profile
上脇 太
(かみわき ふとし)
積水ソーラーフィルム株式会社
代表取締役社長
1960年京都府出身
1983年東京工業大学工学部卒業後、積水化学工業入社
2011年執行役員就任
住宅部門で企画管理・商品開発を経て、2020年取締役専務執行役員就任
ESG経営推進、新事業開発、経営戦略を担当し、2025年より積水ソーラーフィルム株式会社代表取締役社長
日本の再生可能エネルギーの限界を突破する、かつてない挑戦が始まっている。本事業において、ひときわ注目を集めるプロジェクトがある。積水化学グループが社運を賭けて挑む「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」の量産化だ。
従来の太陽電池の常識を覆す「薄い、軽い、曲がる」という特性は、都市部のビルの壁面や耐荷重の低い屋根など、あらゆる場所を「発電所」へと変貌させるポテンシャルを秘めており、日本のGXの切り札ともいわれている。2027年の100MWライン稼働に向けた約900億円の投資を皮切りに、将来的な1GW供給体制の構築までを見据えたこの壮大な計画は、今まさにアクセルを踏み込み、加速しているところだ。積水ソーラーフィルム株式会社・代表取締役社長の上脇太氏に、この事業が切り拓く日本のエネルギー安全保障と、オールジャパンで挑む「設置場所革命」の全貌を聞いた。
日本発の技術で「エネルギーを自給する国」へ
積水化学グループが、このタイミングで「積水ソーラーフィルム」という新会社を設立し、フィルム型ペロブスカイト太陽電池に社運を賭けるほどの投資を決断した背景を教えてください。
私はこのペロブスカイト太陽電池の事業に携わる以前は、親会社の積水化学工業で住宅事業を担当しており、ゼロエネルギー住宅、いわゆるZEH住宅の普及に力を入れ、エネルギーの自給自足を住まいの視点で考えてきました。こうした事業との関わりから、今度は次世代エネルギーとして大きく期待されるペロブスカイト太陽電池の事業責任者となりました。私たちがこの事業に注力するのは、単なる新ビジネスの域を超え、日本の、そして地球の未来に対する『責任』だと捉えているからです。積水化学グループは2030年ビジョンにおいて社会課題解決を経営の中心に据えていますが、このペロブスカイト太陽電池はその象徴的なプロジェクトといえます。
現在、日本はエネルギーの多くを海外に依存していますが、このペロブスカイト太陽電池の主原料である『ヨウ素』は、日本が世界シェアの約3割を占める、数少ない国産資源です。自分たちの資源を使い、自分たちの技術でエネルギーを生む。この『エネルギー自給』の実現こそが、日本の経済安全保障における最大の解になると確信しました。積水化学がこれまでESG経営で培ってきた『サステナビリティへの貢献』を、より具体的な製品として社会に実装していかなければならない。その決意を形にしたのが、この新会社です。
フィルム型ペロブスカイト太陽電池「SOLAFIL」を手に事業開始を発表する上脇社長
経産省のGX支援プロジェクトに採択されたことの意義、そして今回の支援が経営判断に与えた影響をどう捉えていますか。
正直に申し上げると、民間企業一社で数百億、将来的に数千億という初期投資を、まだ市場が確立されていない段階で行うのは極めて高いハードルがあります。今回、経済産業省のGXサプライチェーン構築支援事業に採択され、投資額の一部を支援いただける、力強い後押しを受け経営のスピード感は劇的に向上しています。
私自身の考えでは、これは単なる補助金ではなく『国がこの技術を日本の次世代インフラとして公認し、早期のGW(ギガワット)級供給体制構築を期待している』という強いメッセージと受け止めています。この支援があるからこそ、私たちは『2027年に100MWラインを稼働させる』という野心的な量産計画に踏み切ることができました。官民がリスクを分担し合いながら、未踏の市場を共につくり上げるという、日本のGX戦略における非常に重要な試金石だと考えています。
積水化学がこれまで培ってきた技術と、今回の脱炭素事業はどのように結びついているのでしょうか。
私たちは長年、プラスチックの成形加工や、合わせガラスの中間膜などの『フィルム技術』を磨き続けてきました。ペロブスカイト太陽電池は、一言でいえば『フィルムの上に発電層を塗る』技術が重要です。ミクロン単位の精度で均一に材料を塗布する技術、そして湿気から守るための高い封止(バリア)技術。これらはまさに、積水化学が何十年もかけて蓄積してきたコア技術そのものです。
私たちはZEH住宅の開発などを通じて、省エネ・創エネの最前線に立ってきました。しかし、今回は『住宅』という枠を飛び出し、『都市全体』をキャンバスにする挑戦です。自社の技術的蓄積を、社会全体のカーボンニュートラルという大きな社会課題に直結させる。これこそが、私たちが目指す『技術による社会貢献』の究極の形だと思っています。
「1GW」発電へのロードマップ―量産化の壁を突破する戦略
今回の投資計画は非常にダイナミックです。生産体制の構築と将来的な展望について教えてください。
まずは第一段階として、旧シャープ堺工場(大阪府堺市)の施設を取得し、建物購入を含めた約900億円規模の投資を行っています。この地をペロブスカイトの生産拠点とすべく準備を進めており、2027年に100MWの製造ラインを稼働させる予定です。この拠点はもともと太陽電池の生産用に建てられた工場であり、これを取得できたことで事業化のスピードを数年は早めることができました。
しかし、私たちの目標はここではありません。この建物には、将来的に10倍の『1GW(ギガワット)』まで生産能力を拡張できるポテンシャルがあります。そのフルスペックを実現する場合、投資累計額は約3,000億円規模に達すると見込んでいます。1GWという規模は、原発一基分に相当する発電能力を毎年出荷し続けることに等しい。この圧倒的なスケールメリットを追求することで、製造コストを下げ、従来のシリコン型太陽電池と戦える競争力を確保するのが私たちの戦略です。
「フィルム型」ならではの製造上の難しさ、そして「ロール・ツー・ロール」方式を採用する狙いについて詳しく伺えますか。
最大の挑戦は、極薄のフィルム上に発電層を高速かつ正確に重ねていくプロセスです。少しでも歪みがあれば、発電効率は落ち、寿命も短くなります。私たちは、印刷のようにロール状のフィルムを流しながら連続生産する『ロール・ツー・ロール』方式を採用しています。
この方式は生産効率が極めて高い一方で、フィルムの伸縮制御が非常に難しいのですが、ここで積水化学のフィルム加工技術が活きてきます。また、ペロブスカイトの弱点である水分を完全に遮断する封止技術も投入しています。現在、屋外で10年相当の耐久性を確認していますが、さらに磨きをかけ、インフラとして『当たり前に20年使える品質』を目指しています。この技術的ハードルを越えることこそが、海外勢に対する最大の防壁になると確信しています。
このプロジェクトが成功したとき、私たちの社会や生活環境はどう変わるのでしょうか。
これまでの太陽電池は、広大な土地か頑丈な屋根の上にしか置けませんでした。しかし、私たちのフィルム型なら、ビルの壁面、工場の軽量屋根、駅のホームなど、これまで『諦めていた場所』がすべて発電所に変わります。
これを私は『設置場所革命』と呼んでいます。例えば土地のない過密都市でも、ビルの壁面を利用すればエネルギーを地産地消できます。また、災害時の避難所となる体育館の屋根は一般的に耐荷重が低いのですが、そこに設置し、非常用電源を確保することも可能です。設置場所の制約を超えていく。それが、再生可能エネルギーを真の意味で社会の主役に押し上げる唯一の道だと考えています。
官民連携の「オールジャパン」で世界をリードする
GX政策の文脈では、グローバル競争も避けて通れません。日本発の技術を、日本で守り、世界へ展開していくための戦略をどう描いていますか。
ペロブスカイト太陽電池は、日本で発明されたイノベーションです。しかし、かつてのシリコン型のように、技術は日本で生み出されたにもかかわらず市場は海外に奪われるという失敗を繰り返してはなりません。
そのために重要なのが、今回のGX支援のような『官民一体』の動きです。国が予算を出し、基準を作り、企業がそれに応えてスピード感を持って実装する。この『オールジャパン』の体制が不可欠です。私たちはトップランナーとして、2040年までに20GWという政府の調達目標に大きく貢献し、特定の国への依存を緩和するという経済安全保障上の責務も果たしたいと考えています。
今回の事業を通じて、どのような社会課題の解決を目指されているのでしょうか。
最大の目標はカーボンニュートラルの実現ですが、それは単にCO₂を減らすことだけではありません。エネルギー価格が高騰し、世界情勢が不安定な中で、日本が自律的に電力を得られる社会を作ること。それが、人々の生活の安定や産業の競争力に直結します。
また、この事業はフィルム素材、製造装置、設置工事など、日本国内の多くのパートナー企業と共に新しい産業のエコシステムをつくり上げることができます。現在、多くの自治体や企業から『うちの屋根や壁に設置できないか』というお問い合わせを日々いただいており、社会全体がこの技術を待っていると痛感しています。その期待に応えることが、私たちの使命です。
伝統ある化学メーカーとして、この変革期に「製造プロセス転換」に挑む決意を改めてお聞かせください。
私たちがやっていることは、既存プロセスの改良ではなく、全く新しい『エネルギー製造プロセス』の構築です。化学の力こそがこの難問を解くカギを握っていますが、それだけではなく住インフラ・社会インフラ構築事業で培った設置・施工技術も総動員する必要があります。
素材を分子レベルで制御し、それを広大なフィルムとして社会実装する。化学メーカーの矜持を持って、カーボンニュートラルという人類共通の課題を突破したい。今回のGX支援という後押しを受け、社会から大きな期待を寄せられている私たちはもはや後戻りはできません。積水化学グループの総力を結実させ、世界のエネルギー構造を変える旗振り役になる決意です。
安心できる未来のために―2030年のその先へ
最後に、上脇社長が描く「2030年の景色」、そして次世代へのメッセージをお願いします。
2030年には、日本の主要なビルの屋根面や壁面に、当たり前のように私たちの太陽電池が設置されている世界を実現していたい。空を見上げれば、都市が自らエネルギーを生み出している。そんな景色です。そのとき、ペロブスカイト太陽電池は特殊なものではなく、社会の『標準』になっているはずです。
私たちは社内で『子供たちが安心できる未来を創ろう』と語り合っています。気候変動は待ってくれません。だからこそ、私たちは『スピード』にこだわります。今回、工場建屋を居抜きで取得し、経産省の支援を受けて一気に立ち上げるのは、少しでも早く社会に解を提示したいからです。
私たちは『トップランナー』としての自負を持っています。誰も見たことのない未来を自分たちの手でつくり上げる、これほどエキサイティングな仕事は他にありません。
もちろん、技術的な壁や市場の逆風もあるでしょう。しかし、それを乗り越えた先に、地球環境を守るという圧倒的な価値が待っています。積水ソーラーフィルムは、志を同じくする仲間と共にオールジャパンの力を結集し、世界をリードしていきます。
積水ソーラーフィルムからのメッセージ
採用希望の皆様へ
あなたの仕事が、都市の風景を変え、地球の未来を救う。そんな実感を持ちたいなら、ぜひ私たちの門を叩いてください。世界初、日本初の技術を社会に実装するダイナミズムがここにあります。共に、新しいエネルギーのスタンダードをつくりましょう。
業界のステークホルダーの皆様へ
設置場所革命は、積水一社では成し遂げられません。設計会社、建設会社、建物を所有する企業の皆様。皆様の持つ『壁』や『屋根』を、未来の発電所に変えるパートナーシップを組みましょう。官民の垣根を越えた連携で、日本のGXを加速させましょう。
積水ソーラーフィルム社員の皆様へ
皆さんが今日、ミクロン単位で調整している塗布の精度が、やがてギガワット規模のクリーンな電力となって社会を支えます。皆さんはエネルギー革命の最前線に立つ戦士です。自らの技術に誇りを持ち、ワンチームで世界一の太陽電池を届けましょう!
積水ソーラーフィルム株式会社 コーポレートサイト


